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[Music Essay] デイヴィッド・フォスター『君にすべてを』

カナダ出身で渡米し、才能を開花させた音楽プロデューサー、デイヴィッド・フォスターの音楽の魅力

70年代後半から80年代前半は、洋楽の新しい波が押し寄せてきた刺激的な時代だった。

カナダ出身で渡米し、才能を開花させたプロデューサー、デイヴィッド・フォスターは、自身初のアルバムを日本でリリースしていた。

1983年にリリースされた、デイヴィッド・フォスターのアルバム『君にすべてを』(原題 The Best of Me)は、日本で制作されたインストゥルメンタル作品(下記リスト6と9の2曲を除く)。(発売元:株式会社サウンドデザインミュージック)

曲目リスト
1. WHATEVER WE IMAGINE / 恋のイマジネーション(ジェームズ・イングラムの楽曲)
2. OUR ROMANCE / 二人のロマンス
3. CHAKA / スルー・ザ・ファイア(チャカ・カーンの楽曲)
4. HEART STRINGS / ハート・ストリングス
5. THE DANCER / 氷上のダンサー
6. THE BEST OF ME / 君にすべてを(ボーカル:デイヴィッド・フォスター)
1986年にリリースしたアルバム『デイヴィッド・フォスター』では、オリビア・ニュートン=ジョンとのデュエットでヒットした。
7. MORNIN' / モーニン(アル・ジャロウの楽曲)
8. LOVE, LOOK WHAT YOU'VE DONE TO ME / 燃えつきて(ボズ・スキャッグスの楽曲)
9. LOVE AT SECOND SIGHT / 愛の予感(ヴィッキー・モス、デイヴィッド・フォスターによるデュエット)
ヴィッキー・モスの声はとても美しいと思う。演じている作品が少ないのが、とても残念。デイヴィッドとのデュエットでは、彼女の声のトーン、ビブラート、コーラスの美しさが冴えわたっていて素晴らしい。アルバム『セント・エルモス・ファイアー』の楽曲「If I Turn You Away」でボーカルを担当している。
10. NIGHT MUSIC / 真夜中の旋律

上記は1983年に発売されたアルバムの楽曲。2017年に再発売されたCDには「HARD TO SAY I'M SORRY」も収録されている。

下記クレジットの通り、6と9の楽曲のみ、エンジニア、ミキシング、コ・プロデュースとしてウンベルト・ガティーカが参加している。

Produced by DAVID FOSTER、TAKA NANRI for Sound Design Inc.
Arranged by DAVID FOSTER and JEREMY LUBBOCK
Engineered by IAN EALES
Mixed by BILL SCHNEE
Except on “THE BEST OF ME” and “LOVE AT SECOND SIGHT”
Engineered, Mixed and Co-Produced by HUBERTO GATICA, 2ND Engineer RICHARD PURCELL

『君にすべてを』発売当初はレコード、後にCDがリリースされているが、その後、廃盤、再販を繰り返しているようで、2024年時点では中古でしか手に入らないようだ。

私見だが、このアルバムはデイヴィッド・フォスターの大ヒット作品集というよりは、どちらかと言えば、彼の精神世界である「ロマンス」を表現しているのではないかと思う。

話をもう少し前にさかのぼる。1980年代初頭のアダルト・オリエンテッド・ロック(AOR)というジャンルは、「大人向けのロック」として日本で一大ブームとなり、筆者もその最中にいた。
※Wikipediaではアルバム・オリエンテッド・ロック(Album-Oriented Rock)という解釈もある。

そのAOR全盛の時代の大きな存在が「エアプレイ」だった。筆者にとって、デイヴィッド・フォスターのサウンドの原点は、エアプレイなのだ。

エアプレイのアルバム『ロマンティック』(1980年)の斬新なサウンドは、音楽関係者、ミュージシャンにとって衝撃的だった。全体的にロック色が強いが、これまで聴いたことのない斬新なアレンジは「LAサウンド」の象徴だ。トミー・ファンダーバークによるハイトーンのボーカル、ジェイ・グレイドンの計算されたギターソロとツインギター、デイヴィッドの華麗なキーボードにブラスサウンドが重奏的に重なるアレンジで厚みのあるサウンドになっている。このアルバムにはTOTOのスティーヴ・ルカサー等のセッションミュージシャンも多数参加している。後に日本の音楽業界の間でもそのアレンジが多用され、歌謡曲にも採用されたことは当時のAORファンの既知の事実だろう。

『ロマンティック』で多くのファンを獲得したデイヴィッドだが、後の作品『君にすべてを』の評価が賛否両論に分かれたらしい。各楽曲は著名なシンガーのヒット曲をインストにアレンジしたものであるが、サウンドがアコースティックピアノ、エレピを主体としたバラード作品となっており、歌の無いBGMと受け止めるファンもいたと思われるが、筆者にとっては、派手さを抑えたピアノ、エレピにストリングスを重ねたサウンドが心地よく響く作品になっている。これら楽曲のすべてが筆者にとっては、「フォスターズミュージック」なのだ。オリジナルの歌入りの曲よりもこのインスト版の方がお気に入りになっている。

デイヴィッド・フォスターのサウンドは、ロマンティックなメロディラインに華麗なコード・ワークと分数コードを多用したベース・ラインが複雑に重なるところが魅力のようだ。

『コード・ワークそのものがメロディになっているという点が特徴として挙げられる。』(1)

参考文献:
(1) 雑誌『サウンド&レコーディング・マガジン』(1986年8月)
雑誌『サウンド&レコーディング・マガジン』のデイヴィッド・フォスター特集(16~17ページ)で、作曲家の林哲司氏が「フォスターサウンドの特徴を探る」と題し、サウンド分析を執筆している。  
最新のサンレコでも、こうしたアーティストの楽曲分析の特集をしてほしいものだ。バックナンバーはサンレコ・アーカイブスで読むことができる。(有料)

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